はじめに

馬場佳志です 今日はかゆみについてです。

「同じくらいの肌の状態なのに、ある日はかゆくて眠れないほどなのに、別の日はそれほど気にならない」

アトピーでお悩みの方なら、一度はこんな経験をされたことがあるのではないでしょうか。肌の炎症の程度は同じくらいなのに、感じるかゆみの強さは日によって、あるいは時間帯によって大きく違う。この不思議な現象を理解するカギになるのが、今日お話しする「かゆみの閾値(いきち)」という考え方です。

かゆみを根本から楽にしていくためには、肌そのものだけでなく、この「閾値」に目を向けることがとても大切だと僕は考えています。今日は、閾値とは何か、それがなぜ自律神経と深く関わっているのか、そして自律神経を整えることでどのように楽になっていくのかを、お伝えしていきます。

閾値とは何か

「閾値」とは、簡単に言うと「反応が起こるかどうかの境目となる値」のことです。もともとは医学や心理学、物理学などで使われる言葉で、「これ以上の刺激が入ると反応が起きる」という境界線のことを指します。

かゆみに置き換えて考えてみましょう。私たちの皮膚には、かゆみを感じるためのセンサー(かゆみ受容体)がたくさん存在しています。このセンサーが、ヒスタミンなどのかゆみを引き起こす物質や、乾燥・摩擦といった外部からの刺激をキャッチすると、その情報が神経を通じて脳に伝わり、「かゆい」という感覚として認識されます。

このとき、「どのくらいの刺激からかゆいと感じ始めるか」というラインが、その人の「かゆみの閾値」です。

・閾値が高い人 → 多少の刺激では反応せず、かゆみを感じにくい ・閾値が低い人 → わずかな刺激でもすぐに反応し、かゆみを強く感じてしまう

イメージとしては、コップに水を注いでいくところを想像してみてください。コップが大きければ(閾値が高ければ)、多少水を注いでもあふれません。しかしコップが小さければ(閾値が低ければ)、少し注いだだけですぐにあふれてしまいます。

アトピーの方の多くは、この「コップ」が小さくなってしまっている状態、つまり閾値が下がってしまっている状態にあります。だからこそ、肌の炎症の程度がそれほど強くなくても、些細な刺激でかゆみがあふれ出してしまうのです。

ここで大切なポイントがあります。かゆみを楽にするためには、「刺激そのものを減らす」というアプローチ(保湿する、刺激物を避けるなど)ももちろん重要ですが、それと同じくらい「コップを大きくする」、つまり閾値そのものを上げていくというアプローチも欠かせないのです。

かゆみの閾値を左右するもの

では、この閾値の高さは何によって決まるのでしょうか。実はここに、皮膚の状態だけでなく、体全体のコンディション、特に「自律神経」が深く関わっていることがわかってきています。

自律神経とかゆみの関係

自律神経とは、私たちの意思とは関係なく、内臓の働きや体温調節、血流、発汗などをコントロールしている神経のことです。自律神経には大きく分けて二つの種類があります。

・交感神経:体を活動的・緊張状態にする神経。「戦うか逃げるか」のスイッチとも呼ばれ、日中の活動時や、ストレスを感じているときに優位になります。 ・副交感神経:体をリラックス・休息状態にする神経。夜間や、心身がゆったりしているときに優位になります。

健康な状態では、この二つが状況に応じてバランスよく切り替わっています。しかし、慢性的なストレス、睡眠不足、不規則な生活などが続くと、交感神経が過剰に優位な状態が続いてしまい、うまく切り替えができなくなってしまいます。

この自律神経の乱れが、かゆみの閾値を下げてしまう大きな原因のひとつだと考えられています。理由はいくつかあります。

① 交感神経の過剰な緊張が神経を過敏にする

交感神経が優位な緊張状態が続くと、神経全体が「興奮しやすい」状態になります。これは、かゆみを感じる神経(知覚神経)にも影響し、通常であれば反応しないような弱い刺激にも過敏に反応してしまうようになります。つまり、コップがどんどん小さくなっていってしまうのです。

② 血流の悪化が皮膚のバリア機能を低下させる

交感神経が過剰に働くと、末梢の血管が収縮し、血流が悪くなります。皮膚は栄養や酸素を血流によって受け取っているため、血流が悪くなると、皮膚のバリア機能を保つために必要な材料が不足し、肌が乾燥・炎症を起こしやすい状態になります。バリア機能が低下すれば、当然、外部からの刺激がダイレクトに神経に届きやすくなり、かゆみを感じやすくなってしまいます。

③ 睡眠の質の低下がかゆみを増幅させる

自律神経が乱れていると、夜になっても交感神経が優位なままで、副交感神経へのスイッチがうまく入らず、寝つきが悪くなったり、眠りが浅くなったりします。実は、かゆみは夜間から明け方にかけて強くなりやすいという特徴があり、これも自律神経のリズムと深く関係しています。睡眠の質が下がると、体を回復させる時間が減り、炎症も治まりにくくなる、という悪循環に陥ってしまいます。

このように、「自律神経の乱れ」→「かゆみの閾値低下」→「かゆみが強くなる」→「かゆみでさらに眠れない・ストレスが増える」→「自律神経がさらに乱れる」という悪循環が、多くのアトピーの方の中で起きてしまっているのです。

自律神経を整えることで、閾値はどう変わるか

ここまでお伝えしてきたことを踏まえると、答えはシンプルです。乱れてしまった自律神経のバランスを整え、交感神経と副交感神経がスムーズに切り替わるようにしていくことで、かゆみの閾値を再び上げていくことができる、ということです。

具体的には、次のような変化が期待できます。

・血流が改善し、皮膚に必要な栄養や酸素がしっかり届くようになる ・皮膚のバリア機能が回復しやすい体内環境になる ・神経の過剰な興奮が落ち着き、弱い刺激では反応しなくなる(コップが大きくなる) ・夜間に副交感神経へスムーズに切り替わり、睡眠の質が上がる ・ストレスへの耐性が上がり、悪循環に入りにくくなる

つまり、自律神経を整えることは、肌に直接薬を塗るアプローチとは違う角度から、「かゆみを感じにくい体」そのものを作っていくアプローチなのです。

整体でできること

横浜馬場整体院では、この自律神経のバランスに特に注目してケアを行っています。具体的には、次のような点を大切にしています。

背骨・骨盤まわりの緊張を緩める 自律神経の中枢である脳から出た神経は、背骨(脊柱)を通って全身に伝わっています。背骨まわりの筋肉が硬く緊張していると、神経の通り道が圧迫され、自律神経の働きにも影響が出やすくなります。背骨や骨盤の歪み・緊張を丁寧に緩めることで、神経が本来の働きを取り戻しやすくなります。

呼吸を深くする 呼吸は、自律神経の中で唯一、自分の意思でコントロールできる部分です。浅く速い呼吸は交感神経を優位にし、ゆっくり深い呼吸は副交感神経を優位にします。胸まわりや横隔膜まわりの緊張を緩めることで、自然と呼吸が深くなりやすい体に整えていきます。

全身の血流を促す 手足の末端まで血流が行き渡るよう、全身のこわばりを丁寧にほぐしていきます。特に首・肩まわりの緊張は自律神経に大きく影響するため、重点的にケアします。

日常生活でできること

整体でのケアに加えて、日常生活の中でも自律神経のバランスを整えるためにできることがあります。

・就寝前はスマートフォンやパソコンの光を控え、部屋を暗めにする ・湯船にゆっくり浸かり、体の芯から温める ・朝、日光を浴びて体内時計をリセットする ・呼吸を意識して、吸うときより吐くときを長くする ・かゆみが強い夜は、無理に気にしすぎず、まず深呼吸をしてみる

小さなことのようですが、これらの積み重ねが、コップを少しずつ大きくしていく助けになります。

おわりに

アトピーのかゆみと向き合うとき、私たちはつい「肌をどうにかしなければ」と考えがちです。もちろん肌のケアはとても大切ですが、それと同時に「かゆみを感じにくい体そのものを作っていく」という視点、つまり自律神経を整え、かゆみの閾値を上げていくという視点も、ぜひ持っていただきたいと思っています。

かゆみは、日々のコンディションによって波があるものです。焦らず、体全体を整えていくことで、少しずつ「コップ」は大きくなっていきます。私たちの整体が、その一助になれば幸いです。

横浜馬場整体院 TEL 0453168223