はじめに ― 昔、アトピーは「子供の病気」だった

馬場佳志です。僕は今年で62歳になります。

小学生だった頃を思い出してみると、アトピーという言葉すら聞いたことが有りませんでした。中学は3クラスありましたが、アトピーの子は一人もいなかったと思います。

そして、アトピーは子供の病気で、大人になったら治るものと聞かされていた気がします。当時の常識では、アトピーは成長するにつれて自然に治っていくものというのが一般的でした。

ところが今はどうでしょうか。

大人になってから発症する人、子供の頃は何ともなかったのに20代・30代・40代になって急に肌が荒れ始める人、子供の頃のアトピーが治らないまま何十年も引きずっている人 ― こうした「大人のアトピー」に悩む方が、本当にたくさんいらっしゃいます。私が整体の仕事をしている中でも、肌のトラブルを抱えて来られる大人の方は年々増えている印象があります。

たった数十年で、いったい何が変わったのでしょうか?

今日は、私なりに治療家としての経験と、いろいろと調べてきたことを踏まえて、「なぜ大人のアトピーがこんなに増えたのか」について、できるだけわかりやすくお話ししてみたいと思います。

1. 食べ物が変わった ― 添加物という「見えない負担」

まず一番わかりやすいのが、食生活の変化です。

私が子供だった昭和の時代は、今ほど加工食品や添加物だらけの食品は多くありませんでした。おやつと言えば果物だったり、素朴なお菓子だったりして、今のようにコンビニは有りませんでした。ずらりと保存料・着色料・香料・乳化剤・pH調整剤などが並んだ食品が当たり前に手に入る時代ではなかったのです。

添加物そのものが「即座に毒になる」というわけではありません。しかし、私たちの体は本来、自然界にある食べ物を消化・吸収・排出するようにできています。そこに、体が「これは何だろう」と判断に困るような人工的な化学物質が、毎日・毎食のように少しずつ入ってくるとどうなるでしょうか。

腸はまず「異物」として反応します。腸の粘膜が荒れやすくなり、本来なら通さないはずの未消化物や異物が体内に漏れ出しやすくなる ― いわゆる「腸もれ(リーキーガット)」と呼ばれる状態を引き起こしやすくなると言われています。

腸は「第二の脳」「最大の免疫器官」とも呼ばれるほど、免疫システムと深く関わっています。腸の状態が乱れれば、当然、肌にも影響が出てきます。肌は「内臓の鏡」とも言われ、腸内環境の乱れがそのまま肌トラブルとして表面化することは、決して珍しいことではありません。

毎日ほんの少しずつでも、何十年と積み重なれば、それは決して小さな負担ではなくなってきます。子供の頃は平気だったのに、大人になってから発症するという方が多いのは、こうした「長年の蓄積」が関係しているのではないかと私は感じています。

2. 免疫バランスの崩れ ― TH1とTH2のシーソー

前のブログで書きましたが、私たちの体を守る免疫システムには、大きく分けて「TH1(ティーエイチワン)」と「TH2(ティーエイチツー)」という2つのタイプの働きがあります。

  • TH1は、主にウイルスや細菌、寄生虫といった「外からの敵」と戦うための免疫の働きです。
  • TH2は、主にアレルギー反応に関わる免疫の働きで、花粉症やアトピー、喘息などと深く関係しています。

この2つは、シーソーのような関係にあると言われています。TH1がしっかり働いている環境では、TH2は抑えられ、アレルギー反応は起こりにくくなります。逆に、TH1を働かせる機会が減ってしまうと、TH2側に傾きやすくなり、アレルギー体質になりやすいというわけです。

これは「衛生仮説」と呼ばれる考え方でもよく説明されます。

昔の子供たちは、今よりもずっと土や泥にまみれて遊び、多少不衛生な環境の中で、様々な菌やウイルス、時には寄生虫にも触れながら育ってきました。そうした「外敵」と日常的に触れ合うことで、TH1がしっかりと鍛えられていたのです。

ところが現代は、衛生観念が非常に発達し、除菌・抗菌・殺菌があらゆる場所で徹底されています。清潔であること自体は悪いことではありませんが、その結果として、子供たちがTH1を鍛える機会そのものが失われてしまいました。TH1が鍛えられなければ、シーソーはTH2側に傾いたままになりやすく、アレルギー反応が起こりやすい体質のまま大人になっていく ― これが、アトピーをはじめとするアレルギー疾患が増えている一つの大きな理由だと考えられています。

抗生物質の使用が増えたことも、腸内細菌のバランスを崩し、この免疫バランスの乱れに拍車をかけていると言われています。

3. 農薬の進化と土壌ミネラルの激減という深刻な問題

ここからが、私が特にお伝えしたいテーマです。

農業の世界では、この数十年で農薬や化学肥料の技術が大きく進歩しました。害虫や雑草をより効率的に、より強力に駆除できるようになり、収穫量も安定するようになりました。これは食料の安定供給という意味では大きな恩恵です。

しかし、その裏側で見過ごされてきた問題があります。それが「土壌のミネラル減少」です。

強力な農薬や化学肥料を使い続けた土壌は、本来そこに生息していたはずの微生物や菌類が激減してしまうと言われています。土の中の微生物は、実は土壌にミネラルを供給し、循環させる非常に重要な役割を担っています。微生物がいなくなった土は、いわば「死んだ土」に近い状態になり、ミネラルを保持したり循環させたりする力を失っていきます。

こうした話の中で、「30年前と比べて、土壌のミネラルはなんと27分の1にまで減少している」というような数字を耳にしたことがある方もいらっしゃるかもしれません。この数字については、調査方法や地域、作物の種類によって様々な報告があり、必ずしも一律に「27分の1」という科学的な合意があるわけではありません。ただ、多くの農業関係者や研究者の間で、「戦後から現代にかけて、野菜や穀物に含まれるミネラル・微量栄養素の含有量が大きく低下している」ということ自体は、複数の調査で指摘されている事実です。

例えば、同じ「ほうれん草1束」を食べても、数十年前のほうれん草と現代のほうれん草とでは、含まれている鉄分や亜鉛、マグネシウムなどのミネラル量がまったく違う ― というのは、決して大げさな話ではないのです。

私たちは「野菜を食べているから大丈夫」と思っていても、実はその野菜自体に含まれる栄養価が、昔と比べて大きく目減りしてしまっている可能性がある、ということです。

4. ミネラル不足が引き起こす「デトックス機能の低下」

では、土壌のミネラルが減り、私たちが口にする野菜や穀物のミネラルが減ると、体にはどのような影響があるのでしょうか。

ここで重要になってくるのが「デトックス(解毒)機能」です。

私たちの体には、肝臓を中心に、体内に入ってきた不要な物質や有害物質を分解し、無害化して排出する仕組みが備わっています。この解毒の仕組みは、実は非常に多くの「酵素」の働きによって成り立っています。

そして、それらの解毒酵素が正しく働くためには、亜鉛・セレン・マグネシウム・銅・マンガンといった、様々なミネラルが「補酵素」として必要不可欠なのです。ミネラルが足りなければ、酵素そのものはあっても、うまく機能できません。いわば、車のエンジンはあってもガソリンが不足しているような状態です。

現代人は、

  • 添加物や農薬など、処理すべき化学物質の量が増えている
  • その一方で、解毒に必要なミネラルの摂取量は減っている

という、まさに「板挟み」の状態に置かれていると言えます。処理する仕事量は増えているのに、それをこなすための道具(ミネラル)は減っている ― これでは体の解毒システムが追いつかなくなるのも当然かもしれません。

体内で処理しきれなかった老廃物や毒素は、どこかに排出しなければなりません。その排出ルートの一つが「皮膚」です。汗や皮脂を通じて、体は肝臓や腎臓で処理しきれなかったものを、最後の手段として皮膚から出そうとします。これが、肌の炎症やかゆみ、湿疹といった形で現れることがある ― これはアトピーの原因のすべてではありませんが、体質を悪化させる一因になっていると私は考えています。

5. 見落とせないその他の要因

添加物・免疫バランス・農薬とミネラル不足、この3つが大きな柱だと思いますが、他にも現代ならではの要因があります。

ストレス社会と自律神経の乱れ 現代人は、昔と比べて圧倒的に情報量が多く、常に何かに追われるような生活をしています。過度なストレスは自律神経を乱し、血流や免疫機能に悪影響を与えます。肌のバリア機能や再生能力も、自律神経の状態と深く関わっています。

睡眠不足 肌の修復は、主に眠っている間に行われます。夜更かしやスマートフォンの見過ぎによる睡眠の質の低下は、肌の回復力を確実に落とします。

出産・育児環境の変化 帝王切開の増加や、母乳育児の減少により、赤ちゃんが生まれてすぐに触れる腸内細菌の種類が変わってきているという指摘もあります。腸内細菌叢の形成は、その後の免疫バランスに一生影響を与えるとも言われています。

土や自然との接触機会の減少 昔の子供は土や動物、植物と日常的に触れ合っていましたが、都市化が進んだ現代では、自然との接触機会そのものが減っています。これも先述のTH1が鍛えられにくい一因です。

6. 整体の視点から見る「大人のアトピー」へのアプローチ

ここまで、食べ物・免疫・農薬とミネラル・生活習慣という側面からお話ししてきましたが、私は整体師として、体の「構造」や「巡り」の面からもアトピーを見ています。

アトピーの症状そのものを整体で直接治すことはできません。ですが、体の状態を整えることで、体が本来持っている回復力・解毒力・免疫バランスを取り戻す手助けはできると考えています。

血流とリンパの巡りを整える 肩や首、背中のこわばりは、皮膚への血流やリンパの流れを滞らせます。老廃物がスムーズに排出されるよう、体全体の巡りを整えることは、肌の状態にも良い影響を与えます。

自律神経を整える 背骨や骨盤の歪みは、自律神経の働きに影響を与えることがあります。交感神経が過剰に働きっぱなしの状態が続くと、体は常に緊張状態となり、免疫バランスも乱れやすくなります。体の緊張をゆるめ、副交感神経がしっかり働ける状態を作ることは、体質改善の土台になります。

内臓の働きをサポートする 肝臓や腸に負担がかかっている場合、それに関連する部位の緊張が現れることがあります。そうした部分にアプローチし、内臓が本来の働きをしやすい状態を整えることも、整体の役割の一つだと考えています。

もちろん、これらは医療行為ではなく、あくまで体のコンディションを整えるお手伝いです。皮膚科的な治療と、体全体を整える整体的なケアは、対立するものではなく、両輪として組み合わせていくのが理想的だと私は考えています。

7. 今日からできること

最後に、日常生活の中で意識できることを簡単にまとめます。

  • 加工食品や添加物の多い食品を、できる範囲で減らしてみる
  • ミネラルを意識した食事を心がける(海藻類、貝類、ナッツ類、発酵食品など)
  • 土や自然に触れる機会を意識的に作る(庭いじり、キャンプ、散歩など)
  • 十分な睡眠時間を確保する
  • 過度な除菌・抗菌に頼りすぎない生活を意識する
  • ストレスをためこまず、体を定期的にゆるめる時間を作る

どれも、一朝一夕に劇的な変化をもたらすものではありません。しかし、私たちの体は日々の積み重ねでできています。何十年もかけて崩れてきたバランスは、やはり時間をかけて、少しずつ整えていくしかないのだと思います。

おわりに

61年生きてきて、子供の頃には見たことのなかった「大人のアトピー」がこれほど当たり前になった時代を、今こうして見ています。

これは決して「昔は良かった」という懐古話をしたいわけではありません。ただ、この数十年で私たちの「食べ物」「土壌」「衛生環境」「生活習慣」が大きく変わり、それが体の免疫バランスや解毒機能に静かに、しかし確実に影響を与えてきたという事実は、多くの方に知っていただきたいと思っています。

アトピーに悩む方が、ご自身の体と向き合うときに、「体質だから仕方ない」で終わらせるのではなく、「なぜこうなったのか」という背景を知ることで、できることが見えてくるはずです。

食事、生活習慣、そして体の巡りを整えること ― この3つの視点から、少しずつでも体質改善に取り組んでいただければと思います。

私自身も治療家として、そうした方々の体の土台づくりのお手伝いを、これからも続けていきたいと思っています。

横浜馬場整体院 0453168223